Typhoon (3)

今とおなじ「typhoon」のつづりが使われたのは, かなりおくれて, Shelley の戯曲 『Prometheus Unbound』(1819) だそうだ。 ちなみにこの作品には「Typhon」 (ギリシア神話の神名として) のほうも出てくる。 OED は, 「typhoon」を, tuphon や tuphoon とはさらに別の類に属するものとしているが, そうする基準がよくわからない。

「続く」と書いたわりに, あまり書くことがないので, あとは雑談ふうに。

ほかの西洋語を見ると, フランス語 typhon, イタリア語 tifone, スペイン語 tifón, それに現代ギリシア語の τυφώνας あたりは, τυφων に対応する形におちついている。 ポルトガル語の tufão はウルドゥー語の形にちかい。 ドイツ語 Taifun は一見中国語っぽい形だが, Duden は英語からの借用とする。 ロシヤ語 тайфун は Vasmer によるとドイツ語か英語からの借用。

Τυφων は, 百の頭をもつ怪物だが, また, つむじ風・暴風を意味する。 この語が τυφος (煙, 英語 typhus はこれに由来) や τυφω (煙を出す) に関連するというのはよいが, 印欧語として, さらに英語の deaf と同根であるという。 Starostin のサイトでは, 印欧祖語の形を *dhūp-, *dhūbh- としている。 ギリシア語は *dhūbh- に由来するとかんがえるようだ (グラスマンの法則により, 語頭子音は無気音になる)。 Pokorny によると, さらにこの語根は *dhū- (ラテン語 fumus etc.) に -bh- をつけて拡張したものだという。

さて, 「typhoon」にくらべると, 「cyclone」のほうは由来がはっきりしている。 Henry Piddington がつくり, 1848年の 『The Sailor's Horn-Book for the Law of Storms』 の中で使った語であるそうだ。 日本で書かれた本には 「インド洋の強い熱帯低気圧をサイクロンと呼ぶ」 と書かれていることがあるが, これは日本固有の用法でなければ, 誤用であろう。 英語では台風もハリケーンも cyclone に含まれる。 たとえば, 気象庁のサイトでは 「台風情報」 の英語版のページのタイトルが 「Tropical Cyclone Information」 になっている。

オーストラリアの「willy-willy」についてもよく言及されるが, すくなくとも現在は強い熱帯低気圧の意味では使われていないらしい。 (参照: Hurricane & Tropical Cyclone Formation の下のほうにある注)

投稿時刻 2007-08-02(戊辰) 11:20言語::英語 | コメント (3)

Typhoon (2)

Encyclopædia Britannica の「Earth Sciences」の項目 (オンライン版)によると, William Dampier は, 1687年7月4日にみずからが遭遇した台風について, それを「tuffoon」と呼び, 中央に目を持っていること, 嵐が移動するにつれて風向きが変わることを観察しているという。 Encyclopædia Britannica は, このことが 1697年に出版された New Voyage Round the World に書かれていると言っている。 この本は, 平野敬一氏によって『ダンピア 最新世界周航記』の題で邦訳されたものが, ついさいきん岩波文庫にはいった。 また, Galápagos History & Cartography というサイトで 全文 を読むことができる。

問題の記述は 15章にあるが, そこでは台風のことを単に「storm」と呼んでいて, 「tuffoon」の語はみえない。

The Weather Doctor というサイトの記事 「Weather Almanac for September 2005」 には, じっさい『A new voyage round the world』からの引用として, 「tuffoon」の語をつかった文を引いているが, この文章はみあたらないようだ。 おそらく引用元を書きあやまったのではなかろうか。

OED の書誌によると, 『A new voyage round the world』 と, その続編の『Voyages and descriptions』(1699), 『A voyage to New Holland』(1703-09) の 3冊をあわせた本が 1729年に出版されており, どうやら「Tuffoon」の語は 『Voyages and descriptions』 のほうに載っているらしい。 OED が引いているのは,

The violent Storms called Tuffoons (Typhones).

という短いものだが, 古い「Touffon」などと異なり, 語の末尾が「-oon」というつづりに変わっているのが注目される。

Dampier は広東を訪れているので, 広東語の「大風」を知っていた可能性もある。 このばあい, 語の前半が tu- になっているのは, それまであった tuffon などの影響だろう。 あるいは官話の「大風」に由来するのかもしれない。

しかし, 中国語と無関係に, フランス語の carton から cartoon が, basson から bassoon が, dragon から dragoon ができたように, tuffon が tuffoon になったともかんがえられる。

OED は, ふるくからある tuffon などの形をウルドゥー語由来, tuffoon などは中国語「大風」の方言形に由来する (つづりは tuffon に影響された) とかんがえている。 語源も意味もちがうのであれば, 見出しをわけてもらいたいものだ。

tuffon と tuffoon の連続性を重く見るか, 両者をべつのものと見るかで, 各辞書の態度が異なってくるようだ。

(もうすこし続く)

参照

  1. Encyclopædia Britannica. 15th edition, 1990.

投稿時刻 2007-08-01(丁卯) 17:07言語::英語 | コメント (0)

Typhoon (1)

「typhoon」はいまひとつ由来のはっきりしない語で, 語源辞典の類では通常

  1. ウルドゥー語がアラビヤ語から借用した ṭūfān
  2. ギリシア語 τυφων
  3. 中国語「大風」の方言形

が互いに影響しあってできた語ということになっているが, どれがどういうふうに影響したかについては一致していない。 多くはウルドゥー語がもとで, それにギリシア語と中国語が影響したとするが, 下にあげた本のうち, Skeat は中国語由来説に反対し, Hendrickson は中国語がもとでギリシア語とアラビヤ語に影響されたとする。

OED では typhon2 (whirlwind, cyclone, tornado) と typhoon を見出しで分けている。 前者の初出例として, 「Decades」 21 (Peter Martyr d'Anghiera がラテン語で書いたアメリカ大陸発見年代記を 1555年に Richard Eden が翻訳したもの) の中のハリケーンに関する記述を引くが,

These tempestes of the ayer (which the Grecians caule Tiphones that is whyrle wyndes) they caule, Furacanes.

とあり(例は OED から孫引き, 以下おなじ), ギリシア語由来であることが明らか, というよりギリシア語を引用しているだけか。 ちなみにこの文は「hurricane」の初出例でもあるようだ。

typhoon の例としては, Caesar Frederick のインド旅行記を 1588年に Thomas Hickock が翻訳したものが初出になっており,

I went a boord of the Shippe of Bengala, at which time it was the yeere of Touffon.

と, こちらのほうはベンガルについて述べている。 つづりは「Touffon」とになっているが, 「Tou」を「トゥ」と読ませるつもりなのだろう。 つづりが「-an」でなく「-on」におわっているのは, ギリシア語の影響なのかもしれない。

他の例を見てもなかなかつづりが一定しないが, おおむね前半が tou/tu/ty/ti, それに f/ff/ph がつづき, 末尾が on/one/an/in/awn/aon という形をしている。

古い例では新大陸かインドの暴風について使われる例ばかりである。 そのころ, 台風のことを英語で何と言っていたかというと, 当時は台風関する知識そのものにがなかったため, 何とも言っていなかったようだ。 台風についてはじめて記述したのは 17世紀末の William Dampier だという。

参照

  • OED. 2nd edition, 1989.
  • W. W. Skeat: Etymological Dictionary of the English Language. 1879-1882. new edition revised and enlarged, 1991.
  • The Barnhart Dictionary of Etymology. 1988.
  • Robert Hendrickson: The Facts on File Encyclopedia of Word and Phrase Origins. 2004.
  • Online Etymology Dictionary の typhoon
  • Done With Mirrors の記事 「Carnival of the Etymologies

投稿時刻 2007-08-01(丁卯) 14:14言語::英語 | コメント (0)

Moog

8/21 にロバート・モーグ博士が死亡したとき, やっぱり「ムーグ」でないとしっくりこない, というようなことが書かれたページがいくつかあった。 なじみのある呼びかたをつかいたい気持ちはわからないでもないが, モーグ本人が「モーグと呼ぶのがよい」って言っているのに, ちがうよびかたに固執するのはどんなものだろう。

米国でもしょっちゅう [mu:g] と呼ばれていたようだが, モーグ博士インタビュー でも説明されているように, 曾祖父がドイツのマールブルク出身なので, ドイツ式に発音すればモーグになるのだという。

いっぽう, Keyboard Magazine 1996 の記事 では, もともとムーグだったが, 牛の鳴き声と似ていてバカにされるので, モーグに変えたようなことを言っているが, 上のインタビューと矛盾する。 たぶん, さいしょからモーグだったのだろう。

Moog と書いてモーグと読むのがドイツ系だからだとして, さいごの「g」は「グ」でいいのだろうか? Slashdot の記事が引く Wikipedia の「Robert Moog」の項目 (げんざいの Wikipedia にはこの文章はない) によると, Moog という姓はオランダ系であって, オランダ式に発音すると「モーホ」のようになるようだ。 もっとも語末において [g] と [k] または [x] の対立はないようだから, [g] でもいいのかもしれない。

関係ないが, 『リーダーズ英和辞典』第2版で「Moog」を引いたら, その下に「moo goo gai pan」という語があって, 訳が「蘑茹鷄片」と書いてあったが, 「蘑菇鷄片」のまちがいだろう。

投稿時刻 2005-11-30(戊午) 10:58言語::英語 | コメント (0)

ミロード

小田急 ミロード(mylord) の名前の由来は, シェークスピア時代の英語で爵位のある人へ呼びかける呼称だそうだ。 「Shakespeare mylord」で検索すると, 多数のページがひっかかるが, 英語のものがない。 「milord」だろうか?

ハムレットに「It needs no ghost, Milord, come from the grave, to tell us this」という句がある, と書いてあるページがあったが, 「The Literature Network: Hamlet by William Shakespeare」 では「my lord」になっていた。 テキストによるのかな? もうちょっとちゃんとしらべる必要がありそうだ。

投稿時刻 2005-11-30(戊午) 06:51言語::英語 | コメント (3)

ハイイナ

「ハイイナ」を Google で検索すると 22件あるが, その多くは「……は良いな」をカタカナで書いたもの。 「ハイイナ ハイエナ」で検索すると, 「スペースアルク:英辞郎検索結果」 が 1件のみ。 「ハイイーナ」は 2件で, いずれもハイエナのことのようだ。 「ハイーナ」だと 94件になるが, ハイエナとそうでないものとがまざっているようだ。 「ハイーナ ハイエナ」で 5件。 「ハイエナ」は 253,000件。

「北京 ピーキン」で検索すると 12件。

投稿時刻 2005-11-29(丁巳) 12:27言語::英語 | コメント (7)

OOPART の読みかた

OOPART とは「Out of Place Artifact」の略だそうで, 日本では複数形に由来するらしい「オーパーツ」という名前でよばれている。 中国語ではいくつかの書きかたがあるようだが「欧帕茲」と書くことが多い。 韓国語では「오파츠」のようで, いずれも日本語と大差ない。

「oo」ではじまるほかの単語をみてみると,

  • [u:] のもの: ooze など
  • [u] のもの: oops など(長くてもいい?)
  • [ouə] のもの: oophoritis など
  • [dʌblou] のもの: OOgauge

など, いろいろあるが, oo を「オー」とはよまないのではなかろうか。 「ウーパート」くらいなのでは? 中国語や韓国語の読みは日本語を経由したのかもしれない。

数人の英語話者にたずねてみたが, 「OOPART」という単語じたい知っている人がおらず, 「チャーリーとチョコレート工場」に出てくる人のことかと聞かれてしまった。

(こないだなくなった Moog とむすびつけてこの話を書くつもりだったが, うまくいかなかったので単独記事にした)

投稿時刻 2005-09-28(乙卯) 17:39言語::英語 | コメント (6)

Energon の読み

テレビアニメ番組「トランスフォーマー」に出てくる Energon は, 日本ではエネルゴンと言っているようだが, 英語版では「エナジョン」と言っている。 energy がエナジーだから energon もそれにあわせてエナジョンにしたのだろうが, つづりと発音の関係にかなりムリがある。

i/e/y がうしろに続かない g を「soft g」で読むのは, 有名な gaol, margarine のほかに, mortgagor のように -gor でおわるフランス語からの借用語がいくつかあるようだ。

投稿時刻 2005-07-14(己亥) 04:19言語::英語 | コメント (3)

サツマ

スーパーで「satsuma」のセールのアナウンスをやっていたが, sat-suma のように切って発音していた。

satsuma というのは 2001年10月31日のいろいろ で書いたようにミカンの一種なのだが, どのミカンをさすのかいまひとつはっきりしない。 今回はアナウンスのみで実物を見なかったので, 温州ミカンであるかどうかはわからなかった。

投稿時刻 2004-12-11(甲子) 17:00言語::英語 | コメント (0)

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