十二支の卯はタイやチベットでも兎

十二支の卯の動物がベトナムでネコだとかんがえられている(ことが多い)のは有名だが, 「タイやチベットでも卯がネコだとしている」という記事をネット上でしばしば見かける。 しかし, それは正しくない。

チベットの十二支の動物はほとんど中国とおなじで, ネズミ(byi ba), 牡牛(glang), トラ(stag), ウサギ(yos), 竜('brug), ヘビ(sbrul), ウマ(rta), ヒツジ(lug), サル(sprel), 鳥または鶏(bya), イヌ(khyi), ブタ(phag) になっている。 ちなみにネコは zhi mi, zhum bu, byi la などという。

タイの場合, 十二支の名称と動物の名称がちがうので, ちょっとややこしいが, 卯のことは「เถาะ thɔ1」といい, これは「กระต่าย krataai1」, すなわちウサギだとかんがえられている。 ちょっとデフォルメが激しいが, ここ の絵とかを参照。 タイが中国とちがうのは, 辰と巳の動物をそれぞれ 「 งูใหญ่ nguu yai1 (大きいヘビ)」 と 「งูเล็ก nguu lek3 (小さいヘビ)」 としている点。 ほかに未を「แพะ phɛ3 (ヤギ)」 としているが, 中国で「羊」はヤギもふくむ (ヒツジだけを指す場合は「綿羊」という必要がある) ので, おなじといえばおなじである。

ついでに, 「イランで卯がネコになっている」 と書いてあるサイトも見かけたので, そっちもちょっと見てみた。 「写真でイスラーム」 というブログの記事 「新年のご挨拶&絨毯の中の十二支」 に, 十二支が描かれた 19世紀イランのじゅうたんの写真がある。 これを見ると, 卯にあたる箇所は 「خرگوش khargūsh (ウサギ)」 と書いてあるし, 絵もウサギだ。 中国とちがうのは, 寅が 「پلنگ palang (ヒョウ)」 であるのと, 辰が 「نهنگ nahang (ワニ?)」 である点。 外側に描いてあるトルコ語は私にはあまり理解できないが, 卯は 「توشقان」 と書いてあるようだ。 今のトルコ語でウサギを意味する tavşan の古い形なのだろう (tavışğan でいいのかな?)。

「ベラルーシで卯がネコになっている」と書いてあるサイトもたくさんある。 なぜベラルーシが出てくるのか不思議におもったが, 検索してみたところ, 「Multiculturalpedia 異なる文化を楽しみながら学ぶ事典」 というサイトの 「世界の十二支」 という記事がみつかった。 もともとはベトナムの十二支についての記事だったのが, それに対し, ベラルーシの十二支について, 「あと、うさぎ年を猫年だ、と言う人も少数派ですがいます。」 というコメントがあり(2000年7月5日), どうもこれが元ネタらしい。 「少数派」 という部分が無視されて, いつのまにか「ベラルーシでは猫年」と短絡されたわけだ。

タイで卯がネコ年でないことについては, 「タイまで5,750,000歩」 というブログの 「今年は何年?」 という記事にも取りあげられてあり, つけられたコメントがおもしろい。 チベットについては, チベット語研究者である星泉氏の掲示板の 「十二支に猫?」 (2005年6月25日)で取りあげられている。 どうやら TBS の「はなまるマーケット」が取りあげたために, 話が有名になったようだが, ネット上の記事にはそれより早いものもあるようだ。 おそらく, もとは 「タイやチベットに住む一部の人々(または, チベット系やタイ系の言語を話す人々) が, 卯にネコをあてている」 というような話だったのが, ベラルーシと同様に短絡されて, チベットやタイ全体の話になってしまったのだろう。 そうなったのは, 「十二支にネコがいる地方があってほしい」 という希望を持つ人が多かったからだろう。

ところで, なぜベトナムで卯をネコとかんがえるかだが, おそらく「卯」の漢字音とネコとの発音の類似によるものだろう。 中国語では「卯」が mao3, ネコが mao1 だし, ベトナム語では「卯」が mão (mẹo とも), ネコが mèo だ。 漢字音の伝わらなかった地方では, このようなことは起きそうにない。

投稿時刻 2007-02-11(丙子) 14:19言語::その他 | コメント (7)