インドネシア語でトラを意味する語には harimau と macan があるが,
macan はヒョウを意味するのがふつうのようだ。
macan loreng (縞のある macan)
というとトラの意味に限定される。
タガログ語の musang (ヤマネコ) と同源だろうか?
harimau のほうは, なんとなく合成語っぽいが,
hari (太陽) と関係させようとおもっても意味があわない。
これだけではおもしろくないので, 買っただけで放置してあった Benedict の『Austro-Thai』をついでに読んでみた。 これは南島語族とタイ語をふくむカダイ語族(と, さらに Miao-Yao) が同系であることを証明しようとする本で, 1970年代に出版されたものなので, 現在はもっと研究がすすんでいるはずだということをおことわりしておく。
この本の「TIGER, CAT」の欄を見ると, 祖語として *s[a]rimaw をたて,
harimau と, タイ語の mɛɛu (ネコ) をつなげている!
後者は *limau が
metathesis をおこして *mlyau になったと解釈するらしい。
ひええ。
おもしろいが,
mɛɛu はネコの鳴き声に由来するものだとかんがえたほうがいいだろう。
では, タイ語の sɨa (トラ)が, この本でどうあつかわれているだろうか,
と見ると,
「CAT, TIGER」の欄に, 祖語として *[p]u(n)tsa[q] を立てて,
原インドネシア語の **put'a[']
(** がついているのはデンプウォルフの再構形をもとにした形)
とむすびつけている。
タガログ語の pusa (ネコ) であろう。
トラがネコに, ネコがトラに……。
ベネディクトの考えでは, タイ語に特徴的な「ɨa」という音は,
唇音要素が先行していたことの反映であって,
この語でもそれがあらわれている, ということらしい。
同様の例として, タイ語 dɨan (月 < *'blɨan)
とインドネシア語 bulan (月)
など, いくつかの例をあげているが, あやしげな例もある。
Starostin のところにある Austro-Asiatic etymology では,
タイ語 sɨa は
*sar (cat, fox)
のところに載っていて, 原インドネシア語にはむすびつきそうにない。
しかし, その一方 Austric etymology の *puCa では,
原南島語の *put'ah と原タイ語の *sɨa(A) を同系としている。
うーん。
十二支の寅については, またあらためて。
投稿時刻 2006-05-05(甲午) 11:14 於 言語::その他 | コメント (0)