日本語 tora, 首里方言 tura。
日本には縄文時代以来今まで野生のトラはおらず,
朝鮮半島経由でトラの知識を得たもののようだ。
日本書紀には, 「虎に翼をつけて放し」云々の比喩をのぞくと,
トラに関する記事が 3件あるが,
まず欽明天皇六年に膳臣巴提便が百済でトラを退治した話,
ついで皇極天皇四年に鞍作得志が高麗でトラに妖術を習った逸話,
それから天武天皇朱鳥元年の新羅の調物中の「虎豹皮」と,
いずれも朝鮮半島に関連している。
万葉集3885にも「韓国乃 虎云神乎 生取尓 八頭取持来」といい,
ふるくから朝鮮半島の動物として認識されていたことがわかる。
したがって tora
という語じたい朝鮮語からの借用をうたがうのはもっともであるが,
関係しそうな語が朝鮮語にみあたらないのが問題である。
たとえば『言海』の説明では,
「朝鮮語ナラムカ、人ヲ捕ル意ノ名トイフハイカガ、
或云、支那ニテ、楚人、虎ヲ於菟トイフ、於ハ発声ニテ、〈越ノ於越ノ如シ〉
其菟ヲ伝ヘテ、らノ助語ヲ添ヘテイヘルナリト云、此説モ附会ナラムカ」
として朝鮮語説にかたむいているようだが, 朝鮮語のどの語であるかを言わない。
『日本国語大辞典』によると,
『大言海』では「朝鮮の古語で毛の斑を意味するツルの転」となっているそうだが,
古い朝鮮語ツルって何だろう?
『広辞苑』は「タイ語系南方語起源か」という。
新村出の語源関係書を読む必要があるだろうが, ちょっと今みられない。
ネット上で見ただけで, ちゃんと確認していないものをならべておく。
дусэ?mauya。koTiya というのはヒョウをふくむようだ。
スリランカのヒョウは学名を「Panthera pardus kotiya」という由。puli, テルグ語 puli,
カンナダ語 huli と, きれいにまとまっている。tsov (チョー) という。
(cf. sathmong の「English Hmong Dictionary」)投稿時刻 2006-05-12(辛丑) 01:33 於 言語::その他 | コメント (9)
たしかに朝鮮には「ラ」で終わる地名が多いので, 地名由来ということも考えられますが, 済州島にトラはいましたっけ?
もし tigris がチグリス川に由来するのであれば, トラと耽羅との関係もそれに似てるか, とも思ったのですが, ギリシア語 tigris の語がおそらく古典時代にはなかったのにくらべると, 「トラ」は奈良時代からすでにでてくるので, ちょっとちがうかもしれませんね。
投稿者: massangeana 投稿時刻: 2006/05/13 (Sat) 12:38:40
いないみたいですね。少なくとも現在は。
朝鮮半島自体、トラが絶滅しかかっていて、白頭山の他、1,2箇所しか棲息していないらしいです。
前掲書の「耽羅の国より来た獣」というのは、耽羅の国より(毛皮か何かとして?)贈られて来た獣、という意味なのでしょうかね。
満州語の Wikipedia を見ていたら、
「小さめの虎、小柄の虎
targan(タルガン)(語源は恐らく「虎子」の意であろう。後期中世朝鮮語「s@rk ソルク サルク(山猫)」や日本語「とら」など参照。)
」と書いてある部分を発見。
もしかしたら「トラ」の語源はこちらかも知れない、などと惑わされたりしています。
投稿者: Maniac C. 投稿時刻: 2006/05/14 (Sun) 01:16:02
なんとなく「tiger」にも似てますね... Starostin のツングース語データベースに「*targa 1 beaver 2 tiger's cub」と出ていました。ビーバーとトラの関係を考える上でも気になる例です。
ほかに関係ありそうな語は tarfu (虎の別名), muhan または muhan tasha (雄の虎) とか。ヒョウは yarha といい, なんとなく -ha の部分が tasha と共通しているような。
>満州語の Wikipedia
満州語版の Wikipedia があるのかとおもいました :-)
投稿者: massangeana 投稿時刻: 2006/05/15 (Mon) 11:33:22
『大言海』には「朝鮮の古語ツルポオム」のツルとあり、白鳥庫吉の説だと書いてあります。
吉田金彦『語源辞典動物編』(東京堂出版)はこれを引用した上、中国の白メオ族の tou 、白トホ族の dua 、中国南部タイ系ドウ族の tailah という語をトラを意味するものとして挙げています。
トラといえば、柳田國男『妹の力』の中の「老女化石譚」では、伝説の中の超自然的な力を持つ女性や、それに関連したものが「トラ」という名であることが多いことから(その中には、今では阪神タイガースの女神となった「虎姫」もありますが……)、古代に女巫を意味する「トラ」という語があったのではないかとしていますが……仮にそうだったとしても、さしあたり動物のトラの語源の説明には役立ちそうにないですね。
投稿者: 風鈴’ 投稿時刻: 2006/05/16 (Tue) 00:29:09
調べてくださってありがとうございます。
>ツルポオム
別記事に書いた「トゥルパリ」と似た形ですね。
>白メオ族の tou
上に書いた苗語 tsov と関係しそうですね。
>白トホ族の dua
「白トホ族」が何だかわかりませんでしたが, ベトナムの Tho語(現在の名は Tay語) でしょうか。いかにもタイ語のスアと関係しそうな形ですね。
>中国南部タイ系ドウ族の tailah
獞族! いまでいう「壮族」のことですよね。ずいぶん古い呼び方ですね。(侗族と勘違いするところだった) 手持ちの本では tailah が何であるかはわかりませんでした。
投稿者: massangeana 投稿時刻: 2006/05/16 (Tue) 15:54:15
ヘブル語の「トーラー」からきているという説はないのでしょうか。
投稿者: すのもの 投稿時刻: 2006/05/29 (Mon) 20:44:50
しばらく書き込みがなかったで、(もちろん)冗談として書き込んだのでした。
投稿者: すのもの 投稿時刻: 2006/06/03 (Sat) 01:03:30
角川『外来語辞典』には
トラ【中 耽羅[tam-ra]】(現在の済州島の古名より)……¶「虎は,耽羅の国より来た獣であるからと云うので,トラと云う名を与えたのではあるまいか」岡田希雄『虎の語源と耽羅国』
と書いてあります。
確かに済州島の古名の1つに「度羅(トラ)」というのも在るようですから、説得力の有る説のように思えますが。
投稿者: Maniac C. 投稿時刻: 2006/05/13 (Sat) 00:31:48