『爾雅音訓』に収める「釈倭」という文章は, 日本が山東の居留民の保護を口実に膠済を占領したといっているので, 1928年ごろの文かと思われるが,
秦之音変為脂那、震旦。 而脂那或書支那, 此本非悪名。 然自彼効西法後, 称我支那, 即含有軽藐之意
という。 「支那」本来の意味はわるくないのに, 近代日本のいう支那には軽蔑の意味がこもっているということ。 黄侃は, 「支那」の語を積極的に用いた章炳麟に学んだのに, すでに支那に貶意を感じるようになっているわけだ。
投稿時刻 2008-03-06(乙巳) 02:18 於 言語::地名 | コメント (0)
『世説新語』排調で, 「作危語」 (危険な句を, 「危」の字に韻(『切韻』でいうと支韻)をふませて作る) という遊びをやったとき, 顧愷之が「井上轆轤臥嬰児」と言ったという。
ここでいう「轆轤」は, 円筒形の器械で, 井戸のうえに, 軸が水平になるように置き, 手でハンドルを回転させると, つるべが巻きとられるしかけである。
しかし, どうやってそんなものの上に嬰児が寝ることができるのだろう。 井戸の上だから危険なのであって, 寝づらいから危険, というわけではないだろう。 赤子をだいた人が, 轆轤をつかうために, 赤子を手から離してちょっと井戸端に置いた, という意味ならよいのだが, この 7字をそういう意味に解釈するのは無理のようだ。
ところで, 日本でいう(陶工が使う)「ろくろ」のことを, いまの中国語では何というのだろうか?
日中辞典の類で「ろくろ」をひくと, 「陶工用的旋転円盤」のような説明がされているので, ぴったりした単語がないのかもしれない。 単語になっているものとしてはまず「陶鈞」があるが, これはいかにも雅語らしい。 『現代漢語詞典』で「陶鈞」を引くと「製陶器時所用的転輪」と説明してあるが, 「転輪」じたいは載っていない(「転輪手槍」はある)。 「転盤」というとターンテーブルになるようだ。 「陶車・陶輪」というのは現代語で使われているようだが, ふつうの辞書にはあまり見あたらない。 おそらく英語「potter's wheel」の直訳ではないか。 『中日大辞典』には「旋床子」という語が載っていて, これはたしかにろくろのことらしいが, すくなくとも現代ではあまり用いられないようだ。
投稿時刻 2008-03-05(甲辰) 01:43 於 言語::中国語 | コメント (1)
戦前の人が「支那」について何を言っていたか, すこしずつまとめていこうとおもいます。 かなりゆっくりになるかもしれませんが……
1935年以降「中国文学月報」(のちに「中国文学」と解題)を発行する。 その第1号には,
会名の「中国文学」は「支那文学」と同義である。 固有名詞が同文の二国間で翻訳なしに通用しない不便は避けたいと思う以外に 他意はない。 普通名詞としては「支那文学」と言って一向差支えない。
うんぬんという。 竹内じしんは普通名詞としても「中国」の語を使うことが多かったようだ。
しかるに, 1940 「支那と中国」(のち『日本と中国のあいだ』におさめる) では, 上で安易に「同文」云々といったことを反省している。 「支那と中国」を要約すると:
この文, およびこれ以降の戦前の文章では, 竹内は主に「支那」の語を使っているようだ。
投稿時刻 2008-03-05(甲辰) 01:00 於 言語::地名 | コメント (1)
「Y談」を Google で調べると 44,400件ある。 なかには「Yさん談」の意味で使っているのもあるのかもしれないが, だいたいは「猥談」の意味のようだ。 「Yセツ」は 7,560件。 入力のめんどうくさそうな「Y褻」も, 555件と意外に多い。 「卑Y」も 1,220件ヒットする。 「Y雑」は 103件。 「淫Y」は 34件(関係ないのもまじっているが)。
「わい」と読む, 日ごろ使いそうな漢字には, 「猥」のほかに「穢・歪・矮・賄」などがあるが, これらを「Y」でおきかえたものは, あまり使われていないようだ。 「Y賂」は 46件, 「白色Y星」は 2件。 「Y小化」は 7件あるが, ぐうぜんアスキーアートがひっかかったもの。 「Y曲・汚Y・醜Y」なども, 検索にひっかかるのはおおむね ぐうぜんの一致のようだ。
投稿時刻 2008-02-06(丙子) 20:37 於 言語::日本語 | コメント (2)
王力の区際ローマ字について, いままで「いろいろ」に書いた記事をもとに追加訂正して, 「王力ローマ字について」 というページを作ってみた。 論文を書いているわけではないので, とりあえずこんなもので良しとしよう。
ローマ字つづりは, さきに 「王力の「La romanization interdialectique」(4)」 で書いたものに, さらに一箇所修正をくわえた。 泰韻を (u)ai にするのではなく, oi とも ai とも異なるという意味で åi と書くことにした。 日本漢字音に関するかぎり, oi だろうが ai だろうが大したちがいはないのだが, このほうが, ほかの方言(呉語・粤語など) との対応関係がわかりやすくなる。 日本国憲法前文 では XUAIX(会)を XUÅIX に, LAIX(頼) を LÅIX に変更する必要がある。
投稿時刻 2008-01-17(丙辰) 02:01 於 言語::ローマ字 | コメント (3)
sci.lang でちょっとおもしろい話を見た。 「nasal m and n」という題のスレッドへの投稿 (これ と これ) によると, ベトナム語やクメール語で歌う時に, -k/-t/-p などでおわる音節をのばしたい場合は, そのうしろに ŋ/n/m などの鼻音をつづけるのだそうだ。
なんとなく謡曲の「のむ」うたいかたを彷彿とさせる。 たとえば広東語で歌うときに, こういう歌いかたをすることがあるだろうか?
投稿時刻 2008-01-15(甲寅) 18:57 於 言語::その他 | コメント (4)
中国のセミについてまとめた本としては, 『中国蝉科志』が 227種のセミについて記す。 台湾では『台湾賞蝉図鑑』がすぐれた本のようだ。 しかしどちらも高価で, この文章を書くためだけに購入するのはためらわれる。
とりあえず, 以下の本を読むことができた。
以上の文献と Web 上の情報を総合してみると:
『爾雅』・『方言』などに見られる
「蜋蜩・蚻・蠽・蝒・蜺・蝘・螓・寒螿・螇螰」
の類は古語であって,
今は使われないもののようだ。
文献3 には Melampsalta pellosama (緑寒蝤蝉)
というセミを「寒螿」としているが,
ほかの本には載っていない。
追記: pellosama は pellosoma の誤りではないかとおもうが,
甘粛省自然科技資源 昆虫資源庫
でも pellosama になっていた。
日本では『和名抄』のころから「茅蜩」をヒグラシにあてているし, 「蜩」だけでもヒグラシと読んでいるが, すくなくとも現代中国では「茅蜩・蜩」はアブラゼミのことのようだ。 (ただし, 昆虫の専門書以外では, 「蜩」はたんにセミの古名としか記してないことが多い)
なお「知了」というのは特定の種ではなく, 蚱蝉のことだったり鳴鳴蝉のことだったりするようだ。
投稿時刻 2007-12-22(庚寅) 23:03 於 言語::中国語 | コメント (0)
「ひぐらしのなく頃に」の中国語タイトルが, 台湾では書店により 「暮蝉悲鳴時」と「寒蝉鳴泣之時」とに分かれていて (cf. 中国語版Wikipedia 記事「暮蝉悲鳴時」), 「ひぐらし」は暮蝉と寒蝉のどっちなのか, という話題があがっていたので, 日本のセミの名前について, まず中日・日中辞典をしらべてみた。
| 日本語 | 中日大辞典 | 角川大辞典 | 現代 中国語辞典 |
新日漢辞典 | 小学館 日中辞典 |
講談社 日中辞典 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ニイニイゼミ | 蟪蛄, 惠蛄 | 蟪蛄 | 蟪蛄 | 蟪蛄 | 蟪蛄 | 蟪蛄 |
| ミンミンゼミ | 鳴蝉(総称) | (なし) | (なし) | 蝉的一種 | 蛁蟟 | 蛁蟟 |
| クマゼミ | 蚱蝉, [方]馬蝉(の一種) |
蚱蝉, 馬蝉(の一種) |
(なし) | (なし) | 蚱蝉, 知了 | 蚱蝉, 大知了 |
| アブラゼミ | 鳴蜩(総称) | (なし) | (なし) | 梨蜩 | 秋蝉 | 鳴蝉, 秋蝉 |
| ツクツクボウシ | 寒蝉, 寒蜩, 秋涼 (児), [文]寒螿, [文]霓 |
寒蝉 | 寒蝉 | 黒蛁蟟(寒蝉) | 寒蝉 | 知了 |
| ヒグラシ | (なし) | 寒蝉 (曹植 詩を引く), 茅蜩, 秋蝉 |
(なし) | 茅蜩 | 茅蜩 | 日本夜蝉 |
| ハルゼミ | 雨春蝉 | (なし) | (なし) | (日本特産)春蝉 | (なし) | (なし) |
| エゾゼミ | 花蛾蝉 | (なし) | (なし) | (なし) | (なし) | (なし) |
日本にいるセミが中国でふつうにいるとはかぎらないので, しかたない面があるのかもしれないが, ニイニイゼミが蟪蛄であるのを除いては, ひどくバラバラだ。
なお中日大辞典は校訂第2版。 講談社日中辞典は 2006年の版で, 小学館のものと似るが, 「ひぐらし」と「つくつくぼうし」のところが大きく異なる。
投稿時刻 2007-12-14(壬午) 09:10 於 言語::中国語 | コメント (0)
Google で数しらべ。 ただし, ざんねんながら Google は 「+"ル・コルビジェ"」 で検索しても, 「ル・コルビュジェ」 も ひろってしまうようだ。 そのため, 下の件数はあまり信用できない。
| +"ル・コルビジェ" | 228,000 |
| +"ル・コルビュジエ" | 158,000 |
| +"ル・コルビュジェ" | 85,000 |
| +"ル・コルビジュエ" | 6,940 |
| +"ル・コルビジエ" | 1,050 |
| +"ル・コルビュジ" | 878 |
| +"ル・コルビジュ" | 994 |
| +"ル・コルビュジュ" | 365 |
| +"ル・コルビュジュエ" | 144 |
| +"ル・コルジュビエ" | 8 |
| +"ル・コルジュビェ" | 5 |
| +"ル・コルビジュェ" | 2 |
もっと「ル・コルジュビエ」があると予想していたので, この件数の少なさは意外だった。
投稿時刻 2007-12-13(辛巳) 13:09 於 言語::日本語 | コメント (0)
都営地下鉄大江戸線の牛込神楽坂駅がある, 簞笥町(たんすまち, Google マップ)へ行ってきた。
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電柱の表示は竹冠に「單」。 |
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町内会の掲示板も「單」。 |
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区民センター入口の表示も「單」。 |
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その区民センターの入口前にある地図は「単」。 |
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地下鉄の出口の表示も「単」。 |
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これは関係ないが, 神楽坂の上にある「瓢簞坂」。 |
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 16:37 於 言語::漢字 | コメント (0)
「龗」(U+9F97, 「霝」の下に「龍」)は, 日本書紀で「おかみ」という読みで使われている。 日本においては, 字書の中以外で目にすることのある, 画数のもっとも多い漢字であろう。
しかし, なぜ日本書紀がわざわざこんな字をつかったのかがわからない。 説文解字では「龍也」と書いてあるだけである。 説文解字にある字なので, 後世の字書類にも孫引きされて載ってはいるのだが, この字が何を意味するのか, あまりよくわからない。 山海経(大荒東経)に「犁{霝鬼}之尸」という人面獣身の神が登場するが, 広韻によると, この「{霝鬼}」を「龗」とも書くという。 なお, 「{霝鬼}・龗」はともに「霊」と同音である。
「おかみ」というのは「岡」と関係のある語だろうか? → と思ったが, ア行のオなので, ちがうようだ。
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 03:49 於 言語::漢字 | コメント (0)
asahi.com の 9/28 版で, 中国がミャンマーに「工作組」を派遣した, という記事が載った。 (たぶん紙の新聞にも載ったとおもうが, 未確認)
日本語の記事で「工作組」と書くと, いかにもあやしげな雰囲気がただようが, もちろん中国語では「工作組」というのはたんに作業班のことである。 べつに大陸だけでなく, 台湾でもふつうに使う語だ。 朝日の記者がわざと読者に誤解させようとしたのでなければ, 誤訳と言っていいとおもう。
中国語で単に仕事を意味する「工作」に, 日本語で特別な意味がくわわったことについて, 日本国語大辞典には:
昭和初期、旧満州や上海での日中衝突により、中国語の「工作」が、 日本の新聞の軍事関係の記事に頻繁に現われたが、 その際日本では軍事的な色彩を帯びたものと受取られる一方、 「裏工作」「秘密工作」「スパイ工作」 などにおけるように、裏の、陰で行なわれるものという語感が加わった。
と記してあった。
それにしても, 「工作組」を日本語としてどう読ませるつもりだったのだろう。 コウサクソ? コウサクグミ?
なお, 英語で作業グループのことを「task force」と呼ぶことがあるが, あれはけっこう物騒な語だと思う。
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 02:26 於 言語::中国語 | コメント (2)
イ・ジェウク「韓国語がびっくりするほど身につく本」を Amazon で検索すると, 著者名が「李 〓〓」になってしまっている。 これでは何がなんだかわからない。 読みをつけてもらいたいところだ。 ebookoff だと「李【ジェ】〓」。 紀伊國屋書店 BookWeb では「李 〓〓【著】《イ ジェウク》」と, 比較的わかりやすい。
なお, 「ジェ(재)」は「栽」の「木」を「土」に変えた字(U+363D), 「ウク(욱)」は「彧」(U+5F67)である。 後者の字は IBM 拡張漢字にも含まれている。
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 02:10 於 言語::漢字 | コメント (0)
「ウァレンティーヌス」が Google で 18,800件。 「ウァレンティヌス」は 3,390件。 「ヴァレンティヌス」は 5,340件。 「ヴァレンティーヌス」が 1,700件。 それに対して, 「ワレンティヌス」は 69件, 「ワレンティーヌス」は 74件しかない。 「バレンティヌス」は 2,980件, 「バレンティーヌス」は 96件。
そもそも Valentinus は古典期よりずっと後の 3世紀の人らしいし, 彼にかんする伝説ができたのはさらに後のことだろうから, 「ヴァ」で全然かまわないように思うが, それはともかく。
古典ラテン語の va を「ワ」でなく「ウァ」と書くのは, かなり広くおこなわれている慣行のようで, 日本語版 Wikipedia の「ミネルウァ」の ノート にある議論がおもしろい。 「ΤΑ ΜΕΤΑ ΤΑ ΦΩΝΗΤΙΚΑ」の記事 「ラテン語の「ウァ」」 にも, これが変だということが書いてある。
わたしも変だと思うが, おそらくかつてラテン語の va を「ヴァ」と書くことが広くおこなわれていて, そこから機械的に濁点を除いたために, こういう特別な慣習が発生したのだろう。
なお, Google で「ウァレンティーヌス」が突出して多いのは, 本の副題に使われているためのようだ。
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 01:47 於 言語::日本語 | コメント (0)
総武線秋葉原駅ホームでこういう注意書きを見つけた。
Google で調べると, "雨漏れ" が 46,300件みつかった。 かなり多い。
建築関係の業務用語だろうか。 このページ を読むと, 「雨漏り」とおなじように使われているようでもあるが, ほかのページをいくつかざっと見たところ, ふつうの「雨漏り」が天井から雨がもるイメージであるのに対して, 「雨漏れ」はもっと意味が広そうだ。 秋葉原駅の注意書きも, 窓がしまり切らないために, 建物の中に雨がはいりこむことを指しているのではないかと思われる。
投稿時刻 2007-12-12(庚辰) 01:27 於 言語::日本語 | コメント (10)