王力の「La romanization interdialectique」(3)

このローマ字をローマ字書き日本語文の漢語部分をつづるのに応用できないものだろうか, と思い, まず中古音との関係が比較的単純な漢音についてかんがえてみたが, 問題が多い。 中古音と日本漢音の対応関係自体にゆれがあるものや, 例外的な対応については, たとえば英語で go と to の o の発音がちがうように, 個別におぼえるしかないだろうが, 王力の方式のままではまずい点がいくつかある。

  1. 梗摂と曽摂をともに「eng ing ueng iung」として区別しないが, これではたとえば「霊」と「陵」がともに ling になってしまう。 漢音では両者を区別するのでまずい。
  2. 魚韻と虞韻をともに「ü」, 東韻三等と鍾韻をともに「üng」とするが, たとえば「宮」と「恭」がともに güng になってしまう。 これらは漢音では区別するので, おなじつづりにしては, まずい。
  3. そり舌音(正歯音二等)+拗音は直音になおしてつづるようだが, 「崇・疎・霜」などはいいとして, 「色・愁」は漢音で拗音でないとまずい。 そのほか, 「生」が sheng になっているが, これだと漢音がソウ(サウ)になってしまう。
  4. 「狂」を kuong にしているが, これは「曠」と(声調以外)おなじつづりになってしまうので, 漢音がコウ(クワウ)になってしまう。
  5. 重紐を区別しない。 呉音では区別があるので困る。 漢音ではさいわいほとんど区別されないが, それでも「クヰ」と「キ」, 「ヰ」と「イ」の区別などに関係する。 もっとも歴史的仮名遣いを無視すれば, 問題なし?

また, 王力の説明が簡単すぎるのと, 中途半端に新しい音をつづりに反映させているため, 中古音がわかってもどうつづったらいいのかわからないものが存在する。 たとえば「母・茂・畝・牡」などはどうすべきだろうか。 「母」は広韻にしたがうのなら mouv だろうが, 唐代長安音にしたがうのなら muv にした方がいいだろう。 なお, 尤韻の唇音については「浮 vou」(p.647)のように, (虞韻でなく)侯韻に入れるようだ。

もうひとつ, 一字に複数の音があるとき, どちらを使うかという問題があるが, 王力は何も言及していない。 とくに, 現代日本語の漢字音では声調を区別しないが, おなじ字が意味によって声調をかえることがよくあるが, ローマ字日本語文に王力方式を使った場合, こういう声調のちがいまで意識して書きわけるべきだろうか。

おなじ問題は中国語を記す場合にも起きる。 たとえば「上」という字は動詞「のぼる」のとき去声, 「うえ」を意味するとき上声だが, 中国語現代諸方言では同音になってしまっている場合が多い。 p.647 では「うえ」の意味と「のぼる」の意味の「上」をともに zciangv (上声)とつづっているが, これが意図したものなのか, ほかにも多くある誤りのひとつなのか, よくわからない。

投稿時刻 2007-11-08(丙午) 03:20言語::ローマ字 | コメント (2)