この 15 字を『広韻』の韻によって並べると下のようになる。 複数の音をもつ字もあるが, 表を複雑にしないため, 大徐本の反切と一致する音のみにかぎった。 かっこに入れたのは, n- 系統の子音(泥母・娘母・日母)ではじまる字。
| 韻 | 戈 | 灰 | 支合 | 脂合 | 微合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 平 | (4.捼) | 2.倭,5.[歹委],11.諉,13.逶 | (6.痿),(7.緌) | 3.巍 | |
| 上 | (15.餧) | 1.委 | |||
| 去 | 12.踒 | 8.[羊委],9.萎,(10.覣),(14.[金委]) |
このうち, 灰韻の 1字は前回「餒」のあやまりだろうとかんがえた字であるし, 脂韻の 2字はいずれも日母であり, かなりあやしい。 「巍」もこれだけ疑母(ng-) であって, 例外的である。 原則として「委」を声符とする字は中古では戈韻か支韻合口に属すると言える。
さて, この「委」を声符とする一群は, 伝統的に微部とかんがえられてきた。 おそらく『詩経』の押韻をおもんじたためであろうが, あの例だけでは はっきりしたことは言えないことは, すでに見たとおり。 また, 微部合口字は原則として中古の灰韻・皆韻・脂韻・微韻に分布する。 これは「委」を声符とする字の分布とひどくちがっている。
董同龢『上古音韵表稿』は, 伝統にしたがって「委」を微部とするが,
この分布の問題をどう解決しているかというと,
微部の韻に通常の -əd 以外に -ər があったとかんがえ,
後者のばあいに戈韻や支韻合口が発生したとする
(なお, 同書 p.55 によれば, これはもともと李方桂のアイデアであるようだが,
李方桂『上古音研究』には「委」の上古音についての言及がない)。
しかし表をよく見ると, -ər をもつ字のうちで中古に戈韻になっているのは,
その大部分が「委」にしたがう字であり,
それ以外は「火」およびそれを声符とする「[火β]」, 「蓑」,
「瘰(正確には「田」のかわりに「ム」を 3つ書く)」
しかない。
このうち「火」は明らかに微部なのだが, これが戈韻になったのは, タブー(「火」ということばを言うと火事になるなどの)をさけて言いかえたものではないか, という案をむかし聞いたことがある。
「瘰」については字形上のむずかしい問題がある。 この字の「田」の部分は, 「ム」 3つに書くものと「田」 3つに書くものの 2種類があり, 前者が戈韻や支韻に, 後者が脂韻に主に分布する。 両者がごっちゃになる前は, 「ム」 3つのほうは微部ではなかったのではないかとおもわれる。 なお, 「瘰」は現行の『説文解字』には見えない字だが, 左伝桓公六年伝につけた『経典釈文』に, 「蠡, 力果反。説文作瘰, 云: 瘯瘰, 皮肥也。」 とある。 「累」にしたがう戈韻の字は, ほかにも「螺」や「蔂」などがある。
「蓑」は『詩経』にも出てくる(韻はふまないが)字で, おそらく「衰」を声符とする字は, 例外的に歌部と微部の両者に属したとかんがえるしかないとおもう。 「妥」もこのタイプに属する。 董同龢は「妥」についてはなぜか歌部に入れている。
「委」を声符とする字については, 戈韻と支韻が主で, 数も多いので, 微部とかんがえるよりも, 分布からかんがえて歌部とするのがより適当であろう。 じっさい, 藤堂明保は歌部に所属させている (『中国語音韻論』の諧声音符表では微部になっているが, これは江有誥や朱駿声の表をもとにしたため)。
投稿時刻 2006-09-27(己未) 18:11 於 言語::中国語 | コメント (0)