ジョン K. について(4)

1980年代末には, カートゥーン界にいろいろな変化があらわれてくる。 まず, 米国のテレビがそれまで三大ネットワークによる寡占状態だったのが, ケーブルテレビ局の成長や, 1987年に FOX が誕生することによって変わってきた。 FOX は 1989年に「シンプソンズ」を開始し, これが大きな人気を得る。 「シンプソンズ」は絵の面からはそれほどすばらしいとはおもえないが, サタデーモーニングでない, むしろ大人を対象にしたカートゥーンというのはあたらしかった。

いっぽう 1988年に映画「ロジャーラビット」が米国でヒットしたことによって, 往年のカートゥーンキャラクターによるドタバタがみなおされるようになった。 ロジャーラビットとおなじスピルバーグのプロデュースによって, テレビシリーズ「タイニー・トゥーンズ」が 1990年に放送をはじめ, そのにぎやかさですぐに人気を得る。 前回 書いたように, バクシ版マイティー・マウスのスタッフの多くがタイニー・トゥーンズに参加した。

もっとも, ジョン K. は, あまりタイニー・トゥーンズを評価していないようだ。 前々回書いた Onions のインタビューでも, タイニー・トゥーンズはバクシ版マイティー・マウスでやったあやまりをひきつぎ, 各演出がかってなことをして制御がとれず, とくにギャグをセリフで説明するのがよくない, というようなことをいっている。

さて, 「Tattertown」のシリーズ化は没になったものの, ニコロデオンは自前のカートゥーンシリーズをもつ計画をあきらめていなかった。 ジョン K. は, 1989年に Jim Smith, Lynne Naylor, Bob Camp とともに自前のスタジオ Spümcø をつくり, それまでのようにリメイクではなくジョン K. 自身の創造した動物キャラクターによるニコロデオンのためのカートゥーン番組 「レンとスティンピー (The Ren and Stimpy Show)」 の製作をはじめる。 1990年にはパイロット版「Big House Blues」が完成, 翌年8月11日にほかの 2つのオリジナルシリーズ「Doug」「Rugrats」とともに放送開始する。 それぞれ特徴のある 3つのシリーズはいずれも大きな成功をおさめた。 絵本のような上品な絵柄の Doug, 赤ん坊からの視点を導入した Rugrats に対し, むかしのカートゥーン風の BGM に乗って狂ったギャグが展開する「レンとスティンピー」は, あんまりニコロデオン的とはいえなかったが, それでも人気が高かったので継続製作されていった。 (マーヴルからコミックも出た)

Spümcø の創立者 4人のうち Bob Camp は新顔だが, レンとスティンピーにおいてジョン K. とならぶ力を発揮した。 かれはタイニー・トゥーンズでも絵コンテを書いていたのだが, Something Old, Nothing New: TINY TOON ADVENTURES -- part 1 に引かれている Bob Camp の言葉によると, タイニー・トゥーンズではプロデューサーと脚本家の力がつよすぎることをきらって, タイニー・トゥーンズを去ってレンとスティンピーの製作に来たもののようだ。 Spümcø は, ぎゃくに 「絵をどう動かしたらおもしろくなるかを知っている人(カートゥーン屋)がすべてを決める」 製作方針で, メンバーが多くの声まであてていた。 もちろんジョン K. はレン本人や Mr. Horse の声その他をあてている。 じっさい「ジョン K. 作」ということばにいつわりなく, たとえ彼がクレジットにでていなくても, ジョン K. の意図が反映しているのだと, レイアウトに参加していた Chris Savino が 1992年2月のインタビュー でいっている(どうでもいいけどインタビューの場所はサンタクルズだ!)。

1990年代以降の新しいカートゥーンがレンとスティンピーからはじまるとよくいわれるのは, このようなカートゥーン屋による少数精鋭の製作方式をもちいたことと, それまで抑圧されてきた下品さや暴力を解放して, つまらなくなっていたカートゥーンに新しい力をあたえたためだとおもうが, 後者はとうぜんニコロデオン側との軋轢をうむことになった。

上記 Chris Savino インタビューでは, 第1シーズンではかなりニコロデオンの要請によって表現をおさえる必要があったが, 人気がでたから, 第2シーズンからはもっとニコロデオンのガイドラインが緩くなるだろと予想している。 しかしじっさいはちがった。 第2シーズンで大々的に登場する予定だった George Liquor がとくに子供向けでないとしてきらわれ, 第2シーズンのさいしょのエピソードになるはずだった「Man's Best Friend」は放送されなかった (十年後に大人専用放送局の TNN(Spike TV) ではじめて放送された)。 また, おなじく George Liquor の話である「Dog Show」は, 放送予定よりだいぶあとになって, 編集された形で放送された。 George Liquor 問題については, The Ren And Stimpy Show: Frequently Asked Questions の 「What's the deal with the character and shows with "George Liquor" ?」 を参照。

ニコロデオンとの対立はやまず, けっきょく作者であるジョン K. と Spümcø は第2シーズンのとちゅう, 1992年9月に「レンとスティンピー」の製作をやめさせられてしまう。 やめさせられた経緯は The Ren & Stimpy Encyclopedia, Oh Joy! などを参照。 レンとスティンピーは 52話までつくられるが, ジョン K. によって製作された話はさいしょのわずか 9話(および Man's Best Friends / Dog Show) のみにすぎない。 しかも, それまでの 9話にもニコロデオン側の要請で直したり, 放送時にカットされたりしたシーンがある。 また, 10話めから第2シーズンさいごの18話までは, あるていど Spümcø によってすでに作成されていたものを, ニコロデオン側のつくったスタジオである Games Animation が編集・完成したもので, エピソードによってほとんどが Spümcø の手によるもの, 絵コンテまでが Spümcø の手によるものなど, さまざまなかかわりかたのちがいが存在する。 レンの声もジョン K. のものと Billy West がレンとスティンピーの両方の声を出しているものの二種類が存在する。 どこが Spümcø でどこが Games かは, MOTLOS のガイド を参照。 さらに放送局や再放送によってカットされているシーンがことなるものもあり, 視聴者泣かせの番組である。 2003年に Time/Life から, 第10話(Svën Höek)までと「Dog Show」「The Great Outdoors」を 収録した 3枚組 DVD が出たが, すぐに販売しなくなった。 今年パラマウントから「ノーカット完全第1・2シーズン」の DVD がでて, こちらは 「Man's Best Friend」や 第10話「Svën Höek」のニコロデオンにカットされたシーンをふくむペンシルテスト版も収録しているが, これにさえもカットされたシーンがあるということでファンが不満を表明している。 (この問題に対するジョン K. のこたえは Ren and Stimpy Show, The - Cuts to the episodes in the set? John K responds... にある)

第3シーズン以降は Games の製作になり, ほぼ Spümcø とは無関係になる。 Games には Spümcø の一員だった Bob Camp がいるほか, 第1・2シーズンを製作していた人の多くが参加している。 カートゥーンの製作スタッフがシーズンによってことなることはよくあることだし, じっさい第3シーズン以降にも悪くない話もあるのだが, どうしても第1・2シーズンより見劣りしてしまうのは, なんといってもレンとスティンピーがジョン K. の個性でもっている番組だったからだろう。

レンとスティンピーのキャラクターの権利は VIACOM (ニコロデオンをふくむ MTV Networks の親会社) がもっている。 おなじ MTV Networks のチャンネルである MTV, VH1, TNN(Spike TV) でレンとスティンピーが放送されたり, 今年になって DVD が VIACOM の子会社のパラマウントから出たのもそのためである。 さいわいに George Liquor はニコロデオンがいやがったために権利が Spümcø に残り, ジョン K. はのちに彼をつかったカートゥーンをインターネット上に公開したりする。

なお日本のニコロデオンでは全シーズン中から適宜ぬきだしたエピソードを放送しているが, 最高傑作といわれることもある「Fire Dogs」など, 代表的な作品のいくつかが抜けているのが解せない。

投稿時刻 2004-10-19 22:41toon::tv | コメント (2)